HFI (Hope and Faith International)理事長 福井誠さん
貧困など社会的援護を必要とする人々(主として子ども)が、新しい希望と信頼をもって自立し、 包み支え合う家族やコミュニティーを実現させていくように、教育的・福祉的援助を行っている、東京都認定のNPO法人です。
“アジア貧困地域の就学・生活支援活動のいま”について、HFI理事長の福井誠さんと事務局の佐々木美佳子さんにお話をお伺いいたしました。
■貧困児童への就学支援
――――HFIではフィリピンやネパールへの国際支援を中心に行っていると伺っていますが、具体的にどのような活動があるのでしょうか。
福井:現在のフィリピンは国全体が発展していて、物資支援はほとんど必要ありません。そのため、就学支援といって、貧しい家庭の子どもたちに奨学金を提供したり、就学をサポートする場を提供したりする活動を行っています。
地方の貧困家庭の子どもたちの場合、都会に行けば仕事があると思って、都市部に押し寄せていくのですが、都市部では、学歴がないと仕事に就けません。その結果、都市部のスラム地区に迷い込んでしまい、貧困の循環が起こっています。そのため、就学支援は、奨学金を提供して、子どもたちが通学できることで終わりにするのではなく、将来的に自立できるところまでを視野に入れています。
また、貧困地域の子どもたちは通学してもスラム出身者という理由でいじめられたり、勉強について行けなくなったりして、学校になじめないことがありますので、お行儀や躾、学習補習を行う教育支援センター活動も行っています。
教育支援センターでは、学習以外にも、健康診断、歯科検診や健康増進プログラム(運動会)など健康に関する取り組みも実施しています。年長のスポンサー・チャイルドには就職に役立つ研修を行っています。また、勉強以外にも自信が持てる技能を身に付けて欲しいとの思いから、アート、音楽、コンピューターの使い方なども教えています。
――――日本の公立学校の場合、授業料も教科書も無償ですので、貧困家庭でも通学できない子どもはほとんどいませんが、フィリピンの家庭事情は日本とは異なるのでしょうか。
福井:フィリピンも日本と同様に教育は無償ですが、制服や文房具は自分たちでそろえる必要があります。日本では、これらの学用品を用意できないご家庭はほとんどないと思いますが、フィリピンの場合、かなりの数の貧困家庭が学用品を用意できず、子どもを学校に通わすことができないでいます。
また、フィリピンは子だくさんの家庭が多く、家族を養うために、両親が共働きをすることが少なくありません。その結果、一番上の子どもは、日中、弟妹の世話をすることになりますので、ほとんどの場合、就学できていません。
HFIではフィリピンだけでなく、ネパールの貧困家庭も支援していますが、ネパールは児童労働の国ともいわれており、労働者の50%以上を占める児童労働者で経済が成り立っています。一昔前までは、マーケットに行くと、小学校一年生くらいの子どもが路上に風呂敷を敷いて、その上に野菜を並べて商売していました。また、ガソリンスタンドに行くと、小学校2,3年生くらいの子どもがガソリンを入れてくれるということが当たり前でした。ここ数年はかなり改善されたといわれますが、実際にはまだまだ隠れてやっています。
特に、私たちが支援しているネパールの山岳地帯は、とりわけ貧しく、お父さんはパキスタンなどの隣国に長期で出稼ぎに行きます。出稼ぎに行くには借金をして旅費を用意するのですが、パキスタンで仕事に就いても、借金の返済がありますので、手元に残るお金はほとんどありません。すると、こんどはお母さんが娘を連れて、インドに身売りに行ってしまうのです。その結果、男の子だけが家に残されます。すると、悪い人たちがやってきて、都会で働かないかと声をかけられるのですが、結局は、売られたり、スラムに迷い込んで路上生活者になったりしています。
教育を受けずに育った子どもたちは、学歴がないためによい仕事に就くことができません。その結果、その子どもたちも学校に通えず、貧困が循環してしまうのです。就学支援は、子どもたちが学校に行けるようにすることだけが目的ではなく、貧困問題の解決に対する一手であると考えています。貧困問題の解決には総合的な支援が必要で、子どもに対する就学支援、親の教育、彼らが住む生活環境の向上、たとえば上下水道、医療設備などの整備など、様々な面での働きかけが必要だということです。
――――子ども一人を支援するのにひと月どの位の支援金が必要なのでしょうか。
佐々木:フィリピンの場合、子ども一人を支援するのに一か月20ドルくらい必要です。(文具品だけが必要な子の場合は一か月約5ドルで支援できます。)一方、ネパールは貨幣価値が異なりますので、支援額はフィリピンの3分の1くらいです。
―教育支援センターではどのような方がスタッフとして参加しているのでしょうか。
佐々木:各センターには、30人くらいのスタッフがいますが、専属スタッフは1~2名程度で、大半はお母さんたちのボランティアで運営されています。
スタッフの中にはセンターの卒業生たちもいます。彼らは実社会に出て、エンジニア、社会福祉士、手話通訳者、学校の先生として活躍しながら子供たちの指導にあたっています。センターを卒業した子どもたちが社会的にも成功して、後輩たちを指導してくれるようになりましたので、地域で良い循環がうまれてきていると感じています。