ウガンダ・元子ども兵の社会復帰を願って②

インタビュー
小川真吾(おがわしんご)さん
特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス理事長
1975年和歌山県生まれ
学生時代、カルカッタでマザーテレサの臨終に遭遇したのをきっかけにマザーテレサのボランティア施設でボランティア活動に参加。国際協力やNGOの活動を本格的に始める。
大学卒業後は青年海外協力隊員としてハンガリーに派遣され、旧ユーゴ諸国とのスポーツを通じた平和親善活動などに取り組む。
帰国後、カナダ留学を経て国内のNGOでパキスタンでの緊急支援、アフガニスタンの復興支援活動などに従事。
2005年よりテラ・ルネッサンスのアフリカ駐在代表として、ウガンダ及びコンゴ民主化共和国における元子供兵社会復帰プロジェクトに取り組む。

■子どもたちの“できない物語”を“できる物語”に

――――元子ども兵の人たちの自立には、心のケアが必要不可欠であると思います。具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

小川:心のケアには様々ありますが、最初に行うのは個別カウンセリングです。子ども兵として同じような経験をしても、PTSDを発症する子も入ればそうでない子もいます。また、村の人たちからいじめられる子もいれば、そうでない子もいます。そのため、まずは、一人ひとりに話を聴くところから始めます。これは、個別に面談の時間をとるのではなく、休憩時間や放課後に悩みのある子がスタッフのところにやってきて、話しをするというスタイルをとっています。

長期間、奴隷のように扱われてきた子どもたちは、自由を制限されて、自然と要求することを諦めてしまいます。私たちはこの状態を“できない物語”とよんでいます。いまは、自由に友達と話ができるし、お金だって稼ぐことができるのですが、長期間、拘束された結果、“自分の自由になることはなにもない”と思い込んで、つぎのステップに踏み出せなくなるのです。

(ウガンダの施設にて)

私たちはプログラムを通して、子どもたちの心を“できない物語”から“できる物語”に、変えていくのですが、これは容易なことではありません。これまで様々な取り組みを行いましたが、最も効果があったのは、“小さな成功体験を積み重ねていく”という方法でした。ほんとうに小さなことですが、読み書きの時間に自分の名前が書けるようになったり、掃除の時間にトイレをきれいにできるようになったりすると、そのことにスタッフが気づいてあげて“凄いことなんだよ”と伝えてあげます。このような経験を積み重ねていくと、次第に大きなことができるようになって、最後は洋服をつくったり、ビジネスで収入を得られたりできるようになっていきます。

個別カウンセリング以外では、グループカウンセリングを実施していますが、これは汗をかいたり声を出したりすることでフラストレーションを発散するのが目的です。ここはアチョリという村ですので、アチョリの伝統的なダンスを踊ったり、クリスチャンが多い地域のため、聖歌を歌ったりしています。

(ウガンダの施設にて)

―――支援活動において大切にされていることがあればお教えください。

小川:活動を始めるにあたっては、“ないもの探し”と“あるもの探し”の両方を行います。
“ないもの探し”とはニーズ調査のことですが、食べ物がないのか、衣料がないのか、社会システムが充分ではないのかなど、現地調査を通して確認していきます。私が最初にアフリカに赴任したときは、“ないものだらけだな”という印象を強く受けたのですが、実際の生活を見てみると有形無形のものを含めて、沢山のものがあることに気付きました。その結果、“どうすれば、いまあるものを生かして問題を解決できるか”を考えることが、活動の方針のひとつになっています。

――――“あるもの探し”では具体的にどの様な発見があったのでしょうか?

小川:以前、村の長老に “アチョリの人にとっての教育とはなんですか?”と尋ねたところ、“子どもたちが生きていくために必要な知識を伝えることだ”と教えてもらったことがあります。

平和だったころのアチョリの村では、焚火を囲むようにわらぶき屋根の丸い家(ハット)を建てて、集落が広がっていきました。夜になると焚火のまわりに人びとが集まり、語り部たちが民族の歴史や伝統について話をはじめます。子どもたちは、その話を聞いて大きくなっていったのです。

(ウガンダ・アチョリの村にて)
(ウガンダ・アチョリの村にて)

語り部たちの話には、人びとが共存していくためのことわざや物語がたくさんありますが、その中でも有名なことわざのひとつに「二頭の象が出会ったとき、傷つくのは草木である」というものがあります。象とは強者の象徴で、男たちのことを表しています。草木とは弱者の象徴で、女性や子どもたちのことを表しています。つまり、このことわざは“男たちが戦いを始めると、傷つくのはあなたたちの奥さんや子どもたちである”という意味です。これは、“自分の家族を犠牲にしてまで価値のある戦いであるかどうかを考えなさい”ということを教えています。

このように村には無形の知識や知恵がたくさんあります。そのため、平和教育のプログラムをつくる場合も、子どもの人権や女性の権利についてなど、私たちが持っている知識だけでなく、アチョリに伝統的に伝わる話を取り入れるようにしています。

(ウガンダ・アチョリの村にて)

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