―――本日は、江戸東京たてもの園の展示物を上手に鑑賞する方法についてお話をお伺いできればと思います。まず、高橋さんは江戸東京たてもの園の学芸員さんですが、なぜ、学芸員を志されたのでしょうか。また、普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか。
高橋:私は大学で博物館学を専攻したのですが、私が大学で学んでいた頃に“博物館は、単に知識を広げる場所ではなく、楽しむ場所でもあるよね。”という考え方が出はじめました。ワークショップという、参加者の主体性を重視した体験型講座の考え方も広まりつつあって“博物館での教育普及活動って楽しそうだな”と思い、この世界に入りました。また、学芸員の主な仕事は、調査研究活動です。但し、学芸員は雑芸員と呼ばれることもありまして(笑)、園の管理や運営をはじめとして様々な役割も担っています。
―――園内には魅力的なたてものが沢山ありますが、“順路通りに見るだけでは、たてもの園側からのメッセージを充分に受け取れないのではないか”とも思っています。学芸員のお立場からから、“このように見てもらいたい”という企画意図のようなものがありましたら教えてください。
高橋:押しつけになってはいけないと思いますので、難しい質問ですね。
博物館の歴史を振り返ると、“お宝を見せる。”というような過去もあったように思うのですが、次第に、“歴史を学ぶ場所を提供することで、教養を深めてもらい、地域社会を豊かにしていきたい。”というスタンスに変わってきたように思います。
ですから、自由に見ていただいて、自由に感じとっていただくのが大前提です。皆さんが園を訪れることで、知らず知らずのうちに、知識が入っていくというような工夫をすることが、学芸員の腕のみせどころだと思っています。また、普段何気なく見ているものを、あらためて博物館で見ることで“ちょっと面白いな、もうちょっと調べてみたいな。”と思っていただけると嬉しいですね。
―――先程も園内を拝見させて頂きましたが、たてものの中からお庭を見ると、現代的なものがほとんど視界に入らないことに驚きました。移設の場合、たてもの間の距離が充分に取れないところもあると思いますが、どのような点に配慮されて復元されるのでしょうか。
高橋:移築の場合、地形や敷地の広さなどが当時のものとは、どうしても異なってしまいます。そこで、できる限り、当時の建物の設計者やお庭の設計者の意図を汲んで再現するよう心掛けています。特に、“建物だけでなく、周辺の環境も含めた建築文化や生活文化を復元して見ていただく。”ことが当園のコンセプトになっていますので、復元度は非常に高いと思います。
―――新しい時代の建物であれば、建物が残っていて、それを移設することになると思いますが、茅葺き屋根でできている農家の建物などは、復元の際、オリジナルはほとんど残ってなかったのではないかと思います。古いたてものはどのように復元しているのでしょうか。
高橋:現在、たてもの園には茅葺き屋根が5棟ありますが、そのうちの3棟は、たてもの園の前身の武蔵野郷土館時代のものです。特に、吉野家(農家)は、本来、江戸時代後期の建築物ですが、復元に際しては、江戸時代にまで遡らず、昭和30年代に使われていた状態のもので復元しています。
おっしゃるように、江戸時代の状態のものがすべて残っているわけではありませんので、類例を参考にして再現するという手法を用いることもあります。
―――移設の際は、建物の設計のところから調査されると思いますが、実際にどのような方が参加され、どのような方法で復元されるのでしょうか。
高橋:古い建物は在来方法でできていますので大工さんの方が詳しかったりするんですね。実際にはトンカントンカンと作業をする部門と調査研究を行う監理部門が協力して作業を行います。監理部門では寺社建築に詳しい設計会社さんに入ってもらうこともあります。
また、建物というのは、住み方や家族構成の変化に応じて、増築したり、間取りを変えたりということがありまあす。そこで、たてもの園では、最初につくられた状態に戻していこうというコンセプトで復元されています。
古い建物の場合、使えない部材もありますが、できるだけオリジナルのものを残せるように、古い腐った部分だけを取り除いて継ぎ足すということもやっています。また、復元の際には、古い穴と新しい穴を見極めて、古い穴に形状に合わせて復元したりもしています。
―――園内には様々なたてものがありますが、移設するたてものを選定する際の基準や方針はあるのでしょうか。
高橋:移築事業は東京都の予算で実施しますので、全棟を一度に移築・復元することはできませんでした。そこで、年次ごとに分けて移築することで、数を増やしています。現在は30棟のたてものがあります。
移築にあたっては、最重要移設候補建築物リストを作成して、建築的価値や、民俗的価値、所有者の寄贈の有無を記入することで優先順位を付けていきました。たてものには所有者がいらっしゃいますから、所有者が今後も住まわれるのでしたら、いくら私たちが移築したいと考えても移築はできません。
そのため、東京都の予算と所有者の方のタイミングが合致してはじめて、移築が実現できています。
また選定にあたっては、江戸東京博物館の藤森照信館長が東京大学の教授だった頃、研究室を訪問してアドバイスを求めたりもしています。
―――歴史的価値のある文化を後世に残していくために、私たちができる支援があれば教えてください。
高橋:募金についてはビジターセンターに募金箱がありますし、財団でも寄付制度を設けていますので、それらを利用して頂くことができます。
また、もう少し気軽な支援としては、当園のウエブサイトに「えどまる広場」というものがあるのですが、ペーパークラフトをつくってみようとか、建築に関する言葉を調べてみようというようなワークシートを頒布しています。サイトを閲覧して頂いたり、資料をダウンロードして頂いたりすると、とても励みになりますね。
また、園側としては、一方的に発信するだけでなく、発信したものに対して、“ここがわからない”とか“ここが面白かった”というようにフィードバックを頂けると、双方向のコミュニケーションが生れますので、博物館の社会的意義も高まるのではないかと考えています。
―――たてもの園に来る前にYouTubeで「江戸東京ツアーズ」や「カメラ女子」の動画を拝見しました。動画では、ドローンを使ってたてもの園を上空から撮影していて、たてもの園の新しい見方を発見しました。昨今の社会情勢を考えますと、気軽に博物館に来場できる人も限られていると思いますが、ネットを利用した新たな情報発信というものはお考えでしょうか。
高橋:動画配信に関しては、展示物の解説や、学芸員の仕事の紹介を配信できればと考えているのですが、なかなか実現しないのが実情です。安易なものを配信して期待外れだと思われないようにしたいと考えています。
YouTubeで公開している「カメラ女子」は小金井市が制作しているのですが、園の新しい見方を上手に表現していますよね。
“たてもの園”と“女子”はなかなか結びつかないと思いますが、あの動画をご覧になられてか、最近は、若い方の来場者も増えています。
若い方は、浴衣を着て散策したり、インスタに投稿したりと、いろいろな楽しみ方をされていますので、私たちの方が、園の楽しみ方を教えて頂いている状況です。SNSでも、市民学芸員のような形で、たてもの園を紹介してくださる方もいらっしゃいますので、そういう方々のアイデアを大切にしていきたいと考えています。
―――園内はインスタ映えするスポットが沢山ありますので、もっと気軽な楽しみ方もできそうですね。本日は貴重なお話を有難うございました。
インタビュアー:嶋崎
4K Drone – Edo-Tokyo Open Air Architectural Museum / Bird’s-eye View – Japan
カメラ女子旅 – マイ ファースト 江戸東京たてもの園 / Music & Ambience / カメラ女子 トラベルショートフィルム