高校卒業後、荒川区登録無形文化財保持者の父・欣一さんのもとで本格的に修業を始める。
台東区竜泉の凧絵師故今井鉄蔵氏にも師事し、地口絵と凧絵、絵馬の絵付けを学ぶ。
仕事の範囲は広く、歌舞伎で使われる小道具の提灯の殆ど全ての種類を手掛けるとともに、江戸の町で大流行した地口行灯(じぐちあんどん)の制作も行っている。
※)地口絵とは、地口(一種の駄洒落)と滑稽な絵で構成される絵のこと。地口絵を行灯に描いたものが地口行灯。
平成18年度:東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞受賞
平成19年度:荒川区登録無形文化財保持者に認定
平成 21 年:東京都伝統工芸士に認定
―――― 一つの提灯ができるためには、どのようなお仕事があるのでしょうか。
村田:提灯は、貼る方と書く方で分業になっています。貼る方は、主に水戸の方で行っているのですが、真っ白な提灯に文字を書き入れて、最後に上下に弓を付けて完成します。弓を作るのは竹屋さんの仕事です。部品は全部、問屋さんにお願いしていて、一括でうちにもってきてもらっています。
――――提灯に文字を書くことは、書道とは全く異なった作業のように思いますが、どのようにして文字を書いていくのでしょうか。
村田:提灯の表面はでこぼこですから、一筆で書こうと思っても上手に書くことはできません。ちょうど洗濯板に字を書くようなものです。出来上がりが立体ですから、練習をする際も、平面の紙に書いたのでは駄目ですね。提灯に文字を書く際は、最初に輪郭線を書いて、その中を塗り込むことで綺麗に仕上げていきます。輪郭線の中を塗り込む際は、文字の骨を書いて、それに太く肉付けをしていくように塗っていきます。また、提灯の場合、灯りを入れますから、一筆で塗っただけでは、明かりを灯したときにムラになってしまいます。そのため、何度も色を重ねて塗り込んでいきます。
――――家紋を入れた提灯もありますが、文字と家紋はどちらから先に書くのでしょうか。
村田:文字を入れる方よりも、家紋を書く方が時間がかかりますので、家紋から先に書いていきます。難しい方を先にやった方が疲れないからね。家紋の円は、「分廻し(ぶんまわし)」というコンパスみたいな道具を使います。分廻しは、円を書くときだけではなくて、紋をバランスよく書くための位置決めにも使います。提灯の上では定規を使えませんので、直線を引く際は、厚紙を使って鉛筆であたりをつけます。色は絵の具を使っていますので、色を合わせることで何色でもつくれます。提灯も番傘と同じで、防水のために最後に油を引いて完成となります。ただし、傘よりは防水効果は高くないですけどね。
――――現在、提灯はどのような方が購入されていらっしゃるのでしょうか。
村田:多いのはお祭り関係の方やお店をされている方ですね。赤提灯といわれるように、商売をやっている方は店先に看板代わりに吊るして使います。遠くからでも提灯の明かりで営業しているのがわかりますからね。昔は提灯の中にローソクを入れていましたが、今は危ないので電球を入れることが多くなりました。灯りを灯す場合、文字は大きくないとよく見えません。多少太く書いても、灯りで周りが白く膨らんで見えますので、実際より文字は小さく見えるのです。
今作っているものは、踊りのお師匠さんからのご依頼のものですので、名前を書き入れています。恐らく稽古場にかけておくものだと思いますが、これを持って踊ることもあります。お祭りがあると、芸者さんが提灯をもって参加することもあるのですが、今回は踊りだからそれはないかな。あとは、結婚式や誕生日のお祝いにあげるために購入される方もいらっしゃいます。
―――― 一人前になるにはどのくらいの期間の修業が必要なのでしょうか。
村田:私は18歳からはじめて48年間やっていますが、一人前になるには10年はやらないといけないよね。家紋は家紋なりに難しいし、文字もセンスがいるから難しいね。
―――― 一つ提灯ができるまでにはどのくらいの期間が必要なのでしょうか。
村田:提灯が出来上がるまでには、10日間から2週間ほどかかります。“商売繁盛”や“千客万来”のような提灯は予め作っておくことができますが、お客さんの名前を入れるものは、注文が入ってから作るので時間がかかります。神社からの注文の場合、40号(φ128cm)の大きさの依頼が入ることがありますが、この大きさだと描き上がるのに一週間くらいはかかります。奉納者の名前が多いともっと時間が必要です。また、紋の代わりに、キャラクターを入れたりする場合もありますよ。値段は文字によっても変わりますし、キャラクターを入れる場合はその値段も加算されます。
インタビュアー 嶋崎
泪橋大嶋屋提灯店
電話:03-3801-4757
住所:〒116-0003 東京都荒川区南千住2丁目29−6